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コンピュータプログラムが特許で保護されるわけ

[伊達餅の発明と特許の種類]
 例えばつきたての餅米をうすく伸ばして、その上に特殊な具を並べて載せてから、
  伊達巻きのように巻いて焼くというお菓子の製造方法があったとします。
  このお菓子の名前をとりあえず伊達餅とでも呼ぶことにしましょう。
 この伊達餅の製造方法が新しくて特許になるなら、伊達餅の製造を自動的に行う装置も特
許になります。
 装置の構成は、餅つき機と、餅を延ばすローラーのような機構と、具を入れた器を延ばした
餅の真上でひっくり返す機構と、伊達巻きを丸める機構や焼き上げるヒーターを組み合わせた
ものになります。
 装置の各機構はそれぞれ単独でどこかの装置に既に使われているような当たり前の構造の
ものでもかまいません。全部の機構を組み合わせたセットとしての装置構造が新しくて、伊達
餅を作る機能があれば特許になります。
 又、伊達餅が収納し易く形が崩れにくいとか、餅の部分が固くならないので長持ちするといっ
た特徴があれば、伊達餅そのものも特許になります。
 こんなふうに、何か新しい物を思いつくと、その物や、製造装置、その物の製造方法などにつ
いて、それぞれ特許をとることができます。
 伊達餅の特許、伊達餅の製造装置の特許、伊達餅の製造方法の特許、そして後で説明す
る、伊達餅製造用ロボットのプログラムを記録した記録媒体の特許、というように、一つの伊達
餅の発明を守るために、いくつもの特許をとっておかなければならない理由をこれからお話し
ます。

特許権の侵害とは
 伊達餅そのものが特許になれば、権限のない者が伊達餅を製造し販売する行為は特許権
侵害になります。
  特許制度は、特許権者に特許に関する発明の独占を認めているからです。
 権限のある者というのは、例えば特許権者からライセンスを受けている者が該当します。
 また、伊達餅の製造装置が特許になれば、権限のない者がその装置を製造し販売すると、
製造装置の特許を侵害することになります。
 その装置を購入して伊達餅を製造する者は、製造装置の特許と伊達餅の特許の両方を
侵害するおそれがあります。
 もっとも、特許権者から伊達餅の製造装置を買った場合には、正規のライセンスを受けたこ
とと同じで、特許権侵害にはなりませんね。

製法特許の侵害
 この伊達餅を職人さんが手作りするとしたらどうなるでしょう。つきたての餅をのし棒で器用に
延ばして、手で掴んだ具をさっと並べてくるくるっと伊達巻きにする。
  その後はオーブンに入れていっちょう上がり。新しい装置は全く使いません。
 この場合、伊達餅の製造方法の特許だけが使われます。
 だから、伊達餅の製造方法の特許を持つ特許権者に無断で、この職人さんが伊達餅を作っ
て販売すると、伊達餅の製造方法の特許権侵害になります。
 もちろん、伊達餅を販売するので、伊達餅の特許権侵害にもなります。
 伊達餅を作る人は、伊達餅の特許と伊達餅の製造装置の特許と、伊達餅の製造方法の特
許を使用します。
 ただし、伊達餅製造装置や、伊達餅製造方法は、特許されたものを使わないこともあり得ま
す。
 伊達餅を仕入れて売る人は、伊達餅の特許だけを使います。
 伊達餅製造装置のメーカーは、通常、伊達餅製造装置の特許だけを使います。
 こんなふうに、使われ方がいろいろなので、いろいろな種類の特許をとるわけです。
 次は、伊達餅製造用ロボットのプログラムを記録した記録媒体の特許をとっておく理由をお
話しします。

コンピュータプログラムの特許
 さあ、ここで、この職人さんと同じくらい手先の器用なロボットがあるとします。
このロボットは、コンピュータで動きます。そして、最初にお菓子作りの手順を示したコンピュー
タプログラムをインストールして、スタートボタンを押すと、さっきの職人さんとそっくりの作業で
お菓子を作るものとします。
 このロボットはお菓子作り専用のものではなく、プログラムで指定した仕事をなんでもこなしま
す。
  例えば掃除や洗濯プログラムを実行させることもできるとします。
  また、このロポットは、普通に町で市販されているロボットとします。
  ちょうど、アプリケーションプログラムをインストールする前のパソコンと同じと考えてください。
 何もプログラムをインストールされていないロボットを販売するのは、伊達餅の特許と関係が
ありませんね。
 ここでこんな例を挙げるのは、コンピュータプログラムの特許とコンピュータとの関係が、ちょ
うど伊達餅製造用プログラムとロボットの関係に当てはまるからです。
  コンピュータプログラムの特許の扱いはこうなんだということを、
  これからの説明で理解していただきたいと思います。

ロボット用プログラム
 伊達餅作りの手順を示したプログラムの製造販売はどうでしょう。このプログラムは、
  普通のロボットを、伊達餅の製造装置に変身させてしまう機能を持っています。
 このプログラムの製造販売を自由に認めると、みんなが自由にロボットに伊達餅を作らせる
ことができるようになります。伊達餅製造用プログラムをインストールしたロボットを販売するの
は、伊達餅の製造装置の特許権を持つ者に無断で、伊達餅製造装置を販売することと同じこ
とになりますね。
 だから、市販のロボットにインストールすると伊達餅が作れますよといって、伊達餅製造用の
プログラムを販売するのも、禁止されるべきですね。
 これを放置すると、伊達餅の特許は絵に描いた餅(ここはダジャレです)になってしまいます
から。
 つい数年前までは、コンピュータプログラムは特許による保護の対象に含まれていませんで
した。
 小説や絵画のような芸術作品と同様に、著作権で保護すべきと考えられていたからです。

プログラムの保護
 一方、新しい特許法では、伊達餅製造用のプログラムも特許で保護されるようになりました。
伊達餅製造用のプログラムを記憶したフロッピーディスクやCD−ROMの製造販売に特許権
が及ぶといった形式で保護されます。プログラム自体を保護するわけではありません。
 プログラムというのは形がありません。
 プログラム入りの容器である記録媒体を保護したほうが保護し易いからこんな取り扱いにな
ったと考えて戴いて結構です。
 なお、伊達餅作りの手順を示したプログラムを格納した記録媒体という特許を出願するとき
は、特許出願書類の書き方が少し面倒になります。

ソフトウエア特許の侵害対策
 次に、いろいろな種類の特許を取得したときの効用を説明します。
 貴方が、伊達餅製造用プログラムで動作するコンピュータやロボットの発明を出願して、特許
を受けたとします。ライセンスもしていない者が次のような行為を行ったとき、特許権者として、
貴方はどう対応すればよいでしょう。
 なお、貴方は、伊達餅の特許、伊達餅の製法特許、伊達餅製造装置の特許、及び、伊達餅
製造のためのロボット制御用プログラムを記憶した記憶媒体(フロッピーディスクやCD−RO
Mのことです)の特許を取得しているとします。

1. お菓子屋さんが、普通のロボットと伊達餅作りプログラムとを別々に買ってきてそのプロ 
   グラムをロボットにインストールして伊達餅を作る場合
2. ロボットメーカーが、始めから伊達餅作りプログラムをインストールしたロボットを作って売
   る場合
3. ロボットメーカーが、伊達餅作りプログラムを含むいろいろなプログラムをインストールし 
   たロボットを販売する場合
4. ソフトウエアメーカーが普通のロボットで実行できる伊達餅作りプログラムだけを販売する
   場合
5. ロボットメーカーが、伊達餅作りプログラムインストールできるけれども、なにもインストー
   ルしていないロボットを販売する場合

1. の解答
   伊達餅の製法特許の特許権侵害として訴えます。
   お菓子屋さんが、伊達餅を実際に作る行為は、製造方法の発明をそのまま実施する行 
   為だからです。
   伊達餅そのものの特許権侵害として訴えます。
   伊達餅の製造販売行為は、伊達餅の特許権を侵害することになるからです。
2. の解答
   伊達餅の製造装置の特許権侵害として訴えます。
   製法特許の特許権侵害として訴えることができます。
   製造方法の特許があるとき、その製法を実施するためにのみ使用する装置の販売は製
   法特許を侵害したものとみなすという規定があります。
   装置を販売する者は直接製法特許の特許権を侵害していないけれども、その装置を購入
   したものは必ず製法特許を侵害するはずだから、購入者による侵害を未然に防止しよう
   とするためです。
   2つ以上の特許について侵害をしていると攻めるほうが、有利に交渉がすすめられます。

ちょっと脱線
 伊達餅製造装置が伊達餅製造専用ではなくふつうのせんべい製造用にも使用できるよう場
 合には、その装置を持っているというだけでは、製法特許の侵害と断定できません。
 装置を購入した者が必ずしもその製法特許を実施するとは限らないからです。
  特許権者は、装置を購入した者による伊達餅の製造をつきとめて立証する必要があります。

3.の解答
  伊達餅の製造装置の特許権侵害として訴えます。
  伊達餅の製法特許の特許権侵害とはいいにくい点は2.で説明したとおりです。
  なお、ロボットの購入者がお菓子屋さんなら、そのお菓子屋さんは、伊達餅の特許と
  伊達餅製造装置の特許と伊達餅の製造方法の特許を全部侵害しているとして訴えることが
  できます。
  ところが、ロボットの購入者が普通の消費者で、自分の楽しみのために伊達餅を作って食
  べるだけとすると、その人を特許権侵害と訴えることはできません。
  特許法は、個人的家庭的にのみ発明を実施する行為には特許権が及ばないと規定してい
  ます。
  不正競業行為を防止することが特許制度の主要な目的だからです。

4の解答
  媒体特許の特許権侵害として訴えます。
  ソフトウエアメーカーは、伊達餅も、伊達餅の製造装置も売りません。伊達餅の製造もしま
  せん。
   だから、媒体特許以外ではこのソフトウエアメーカーを攻めることはできません。
  これを考えると、特許を出願するときに、ここまで考えておかないといけないんだということ 
  がおわかりになると思います。
  即ち、コンピュータで制御する装置を取り扱う特許出願をする場合には、媒体特許を意識し
  た特許出願明細書を作成すること、請求の範囲には、「・・・プログラムを記録したコンピュ 
  ータ読み取り可能な記録媒体」といった請求項を含めることが大切なのです。
5.の解答
  これは、特許件侵害とは言えませんね。


媒体特許とは
 媒体特許は、「ロボットに伊達餅を製造させるためのプログラムを格納した記憶媒体」を対象
として与えられる特許です。記憶媒体というのは、フロッピーディスクやCD−ROM、 ハードデ
ィスク等のプログラムを記憶させておくことができる様々な媒体のことをいいます。
 コンピュータのプログラムは、一般にこうした記憶媒体に記憶させた状態で販売されるからで
す。
 ちょっと脱線をしますが、記憶媒体無しにプログラムを販売することもできますね。
例えばネットワークを通じてプログラムをダウンロードさせる方法です。この点について、まだ、
特許権が及ぶかどうかのオーソライズされた結論は出ていません。
 しかし、この場合に、送信側と受信側に必ず記憶媒体が存在します。この行為は、 プログラ
ムを記憶させた記憶媒体の販売にはなりませんが、プログラムを記憶した記憶媒体の製造、
あるいは使用をすることになります。特許法では、物の特許が存在する場合に、その物を製造
したり、使用したり、販売する行為はいずれもその発明を実施する行為になり、侵害行為に結
びつきます。
 だから、プログラムを記憶させた記憶媒体から、そのプログラムを自分の記憶媒体にダウン
ロードさせる行為を行っているものは、媒体特許を侵害することになると言えます。
 
まだまだコンピュータプログラムの発明はやっかいです
 伊達餅製造用プログラムをインストールしたロボットについてはすでにお話しました。
 そのロボットをお菓子屋さんが持っていれば、当然そのロボットで伊達餅をつくるわけですか
ら、そのロボットは、伊達餅製造用の装置です。だから、伊達餅製造装置の特許権侵害の対
象になります。
 しかし、そのロボットにインストールしたプログラムが、いろんなお菓子の製造手順を示して、
好きなように選択して実行させることができるようなものだとしたら、そのプログラムをインスト
ールしたロボットは、どんなお菓子を作るか、お菓子屋さんの選択にまかされています。伊達
餅を一生つくらずに終わってしまうかもしれません。
 そんな場合にまで、特許権の効力を及ぼすのはおかしいと言える反面、 いつでも伊達餅を
作る可能性を備えているロボットが自由に販売されては、特許権者も心おだやかではいられな
いでしょう。まして、そのロボットが、家庭用としてどんどん販売されるとしたら、特許権者は手
も足も出ません。
  すでに説明したように、個人的家庭的に特許を実施する行為は、特許権侵害にならないから
です。
 このへんまでくると、未解決の問題がたくさん出てきて、だれもズバリ解答ができないのが現
状です。
 ソフトウエアの保護というのは、まだまだ始まったばかりで、よちよち歩きの状態にあると言え
るかもしれません。

まとめ
 かなり、分かりやすい部分と面倒な部分とがまざったお話になってしまいました。
 結論は、伊達餅という新しいお菓子を考えついたら、伊達餅の特許、伊達餅の製造装置の
特許、伊達餅の製造方法の特許、及び、伊達餅製造用のプログラムを記録した記録媒体の
特許という、4種類の特許をとっておくのがベストですよということになります。
 これらは、それぞれ別々に出願する必要はありません。全て1件の出願に含めることができ
ます。
 請求項のサンプルも紹介しましょう

 【請求項1】 ペースト状の具を一面に塗布した、一定の幅の帯状の餅米を、
         伊達巻き状に巻き上げた構造の菓子。
 【請求項2】 つきあげた餅米を薄く延ばしてから、
         ペースト状の具を一面に塗布し、
         その後、上記餅米を一定の幅の帯状に裁断してから伊達巻き状に巻く
         菓子の製造方法。
 【請求項2】 餅つき機と、
         つきあげた餅米を薄く延ばす延伸機と、
         薄く延ばした餅米の上にペースト状の具を一面に塗布する塗布機と、
         餅米をペーストとともに一定の幅の帯状に裁断する裁断機と、
         裁断した餅米をペーストとともに伊達巻き状に巻く巻き上げ機とを備えた
         菓子の製造装置。
 【請求項3】 きねと臼を掴んで、ロポットの腕を上下に動かして餅をつく処理と、
         つきあげた餅米をテーブルの上に出し、ロポットの腕を水平に動かして薄く延ば
         す処理と、
         ロポットの腕を具の入れ物と餅米の間で往復させて、
         薄く延ばした餅米の上にペースト状の具を一面に塗布する処理と、
         ロポットの腕にカッターを持たせて、
         餅米をペーストとともに一定の幅の帯状に裁断する処理と、
         ロポットの腕をロール巻きモードで動作させて、、
         裁断した餅米をペーストとともに伊達巻き状に巻く巻き上げ処理とを、
         上記の順番にロボットに実行させるロボット制御用プログラムを記録した
         コンピュータ読み取り可能な記録媒体。

 伊達餅の製造についてなら比較的説明し易いのですが、例えばテレビゲーム用のプログラ
ムについては、どういう表現で特許出願をするのか、パソコンで活用される通信ソフトやドライ
バ等はどういう表現で特許出願をするのか といった疑問がたくさんわいてくると思います。
  そんなときは、特許庁で、既に特許された関連分野の特許出願明細書を参考にして、ご自分
でベストと思われる特許出願をして下さい。

 2001年1月からソフトウエアの審査基準が改正されました。
 長い間かかりましたが、やっと、コンピュータプログラムそのものが特許を認められるように
なりました。法律が改正されたわけではありません。運用がかわっただけです。特許庁での法
律の解釈がかわったということです。形式的なことであり、あたりまえのことですが、ずいぶん
時間がかかりました。

 さあ、こんどは、コンピュータプログラムの発明をどうやって強力な特許にするか。
 これからが、われわれの腕の見せ所のような気がします。
 ちなみに、だて餅製造用のロボット制御プログラムは、次のような請求項になります。

 【請求項4】 コンピュータを、
        きねと臼を掴んで、ロポットの腕を上下に動かして餅をつく処理を実行させる手段
        と、つきあげた餅米をテーブルの上に出し、ロポットの腕を水平に動かして薄く延
        ばす処理を実行させる手段と、ロポットの腕を具の入れ物と餅米の間で往復させ
        て、薄く延ばした餅米の上にペースト状の具を一面に塗布する処理を実行させる
        手段と、ロポットの腕にカッターを持たせて、餅米をペーストとともに一定の幅の 
        帯状に裁断する処理を実行させる手段と、ロポットの腕をロール巻きモードで動 
        作させて、裁断した餅米をペーストとともに伊達巻き状に巻く巻き上げ処理を実 
        行させる手段として機能させるためのコンピュータプログラム。

 作 弁理士 加藤雄二
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